小泉 誠

Dedigner - Makoto Koizumi

「箸置きから建築まで」生活に関わる全てのデザインに取り組み、日本全国の産地を駆け回る家具デザイナーの小泉誠さん。そんな小泉さんと一緒に、私たち相羽建設の空間づくりや「大工の手」の家具製品、建築的なものづくりに取り組んできました。この記事では、小泉さんと相羽建設の出会いや、取り組んできたものづくりの一端をご紹介します。

家具デザイナーの小泉誠さんと相羽建設のものづくりがスタートしたのは2011年。建築させていただいたお住まいの「家守り」やリフォームのお手伝いをするリフォーム事業部の事務所兼ショールームとして、マンション一階のテナントを改修することに。その拠点づくりにあたって、ご近所である国立市を拠点に活動されていた小泉さんに、空間デザインやリノベーションで活かせる家具のデザインをお願いしたことがきっかけでした。
「あいばこ」と名付けられたその拠点では、地域の人たちとつながる交流スペースとして街に開く場所とするため、オープンな空間を置き家具で間仕切りしたり、座れる窓枠などをつくりました。その仕事の中で「家をつくる大工の手仕事で家具までつくり、住み手に愛着を持って永く大切に住み続けてほしい」という想いと共に、さまざまなアイテムが生まれました。大工のつくる家具は、製品を販売することが目的ではなく、つくり手と住み手の心を育む「大工の手」の活動として、全国の工務店・メーカーと一緒に取り組み、手仕事の価値を伝えていこうという取り組みに発展。「一般社団法人わざわ座」が設立されました。

相羽建設のモデルハウス「つむじ」を訪れると、地域のランドマークとなることを目指して小泉さんがデザインした登れる家具「巣箱」があります。その内部は定員2名の宙に浮いた箱空間。梯子を登って内部に入ると、傾斜した床と大きな背もたれ板でラウンジチェアになり、窓枠がテーブルに。建築そのものが身体を支える家具になっています。「舎庫」は6畳ほどの小さな建築。家の前の駐車スペースや庭に建築して、お店やワークスペースなど様々な空間として活用ができる、車一台分ほどの広さです。
つむじでは、毎月1回「つむじ市」が開催されており、クラフト作家さんによるワークショップや作品販売や、農家から届く季節の野菜を販売しています。

地域の人と場をつなぐ「住み開きの装置」

小泉さんがデザインして大工がつくる「大工の手」の活動がはじまって数年を経て、地域の人たちをつなぐ「住み開きの装置」が生まれました。「無人販売所」は、農家さんの新鮮な野菜や作家さんの作品を販売するために。「屋台」は、持ち運びや取り付けやすさにこだわり、気軽に地域との交流の場が生まれる家具として製作されています。

多摩地域の交流施設での活用も進んでいます。立川市のけやき出版が運営するBALL.HUBでは屋台もや無人販売所を含めた「大工の手」をふんだんに設えた空間。多摩地域の情報を発信する月刊誌BALL.や自社出版の書籍に加え、地域の名産品を販売したり、地域のクリエイターと協働する拠点となっています。同じく立川市「GREEN SPRINGS」で定期的に開催されるクラフトマルシェでも30台ほどの屋台で作家さんやお店が出店しています。
「大工の手」は地域の人と人、人と場をつなぐ家具にもなっています。

「住む×働く」職人の手仕事を体感するオフィスリノベーション

近年では個人のお客様の家づくりだけでなく、法人のオフィスリノベーションや店舗や施設の新築・改修工事のご依頼をいただくことが増えてきました。政府が進めてきた「働き方改革」に加えて2019年からのコロナ禍の中でリモートワークなど働き方の多様化が進む中、相羽建設は創業50周年を迎えた2020年、小泉さんの設計・監修のもと、本社事務所のリノベーションを行うことに。
新しいオフィスでは、フリーアドレスとABWを採用。働き方に合わせてその日のデスクを選んだり、食事をそれぞれのデスクでなく共有スペースで食べたり、スタッフが自由に使えるキッチンを設けたことでコミュニケーションの場が生まれました。
小泉さんのデザインは、その製品や空間を使う人がどのような気持ちでどのように使うかを考え、見直すところから始まります。オフィスであれば働きやすさだけでなく、どう働きたいか、どうすれば仕事の場の環境を改善できるかを考えて、その想いを空間に反映させていきます。
自分たちが働く場所を小泉さんや職人と協働してリノベーションしたことで、私たち自身が住むことと働くことを日々実体験し、その意味を見つめなおすきっかけとなりました。

小泉 誠
1960年東京都生まれ。木工技術を習得後、デザイナー原兆英に師事。1990年Koizumi Studioを設立。2003年にはデザインを伝える場として「こいずみ道具店」を開設。建築から箸置きまで生活に関わる全てのデザインに関わり、現在は日本全国のものづくりの現場を駆け回り地域との共同を続けている。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科客員教授。2012年毎日デザイン賞受賞。2015年より一般社団法人わざわ座代表理事を務める。